大学卒業後のフリーター時代、夜は宣伝会議とDTPの講座に通いながら、
昼間はほとんど毎日パチンコ屋さんでバイトをしていた。
“とりあえずたくさん稼いで、早く生活を安定させたい”。
それくらいの理由でパチンコ屋さんを選んだのだと記憶している。
バイトをはじめて最初の数日間は、ほんとうに適当だった。
“俺は将来の夢のためにここにいる。仕方なく働いているんだ”といった
調子に乗ってる感じがあふれ出ていたと思う。
あと、大学卒で、俺は他の人たちとは違うんだという偉そうな感じも…。
本当につまらん奴だった。
そんなある日、いつも通りパチンコ屋さんの店内を巡回していると、
ついに堪忍袋の緒が切れた先輩が鬼の形相で向かってきた。
いきなり胸ぐらをつかまれて「仕事なめてんじゃねぇぞ!
俺らはただ歩き回っているだけじゃない。足引っ張るんならとっとと辞めろや!」と。
めちゃくちゃ怖かった…、そして“足を引っ張ってる”って言い方に心底傷ついた。
俺はみんなのお荷物だったのか。そんなの嫌だ…
その日から本気になった。
1.5倍の速度で歩き、ランプが着いたら急いで駆けつけお客様に対応。
自分の担当以外のエリアにもぐいぐいヘルプに入り、玉を抱えては交換し、
手が空いたらタオルで台を拭き、自分のできることはすべてやった。
その働きぶりは、女性客から告白を受けるほどに輝いていた。
そして1年半が過ぎた頃、
パチンコ屋の心臓部とも言える「玉場」という場所の清掃担当に任命された。
まわりの先輩からは、これは異例の出世だと相当に褒めてもらった。
本来なら何年も経験してからでないと、玉場には配属されないとのことだった。
今はもう、このパチンコ屋さんはなくなってしまったが、
この異例の出世は今でも僕の誇りとして胸に刻まれている。
そしてあの時、ぶち切れてくれた先輩の言葉にも
感謝をせずにはいられない。
あの一言がなければ、僕は出世できなかっただろう。
今いる場所で精一杯に本気で取り組めば
たまにはいいことがあるものだ。