目覚めのひと言。




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大学を卒業後コピーライターを目指し大阪へ引越しをした頃、
宣伝会議のコピーライター養成講座を受けることしか考えておらず、
しばらくはバイトもせず貯金を食いつぶす生活を送っていた。

知人や友人の居ない大阪では人と話すこともなく、あまりに誰とも喋らないので
コンビニで「セブンスターひとつ」がうまく言えなくなっていた。

外に出れば新しいスーツを着た新卒の社会人の姿がちらほら見かけられ
自分は大丈夫なのだろうかと不安な気持ちが増幅されるので極力外出も控えるようになった。

実家や離れた友人に電話するのも、今の自分をうまく説明できないと思っていたので避けていた。
要するに寂しかったけど強がっていた。

そんなある日、大学時代の友人が電話を掛けてきて「今度、新人の研修で大阪に行くから会わないか」と。
あまり気乗りはしなかったが、しぶしぶ会うことにして部屋に招待した。
大阪に住んでしばらく経ったものの僕には特にご報告できるようなニュースはなく現状をありのままに説明した。

まだ引越しの片付けが終わっていない僕の部屋を見てか、それとも手入れのされていないヒゲがボボーだったからか、
僕の話が面白くなかったからか今となっては覚えていないが、

その友人は「お前、終わってるな…」とひと言。

“新人研修”、“出張”、“新社会人”、“キラキラのスーツ”…、僕が言い返せることは何一つなく、
「俺は夢を追っているのだ…」という、うっすらとした希望だけが何とか僕を支えていた。

友人は忙しいからと、そそくさと部屋を去り、僕は見送ったその足で急いでコンビニへ向かった。

バイト情報誌『an』を買って「俺だってやってやるぞ!」と電話を掛けまくった。
そして数日後パチンコ屋さんへの面接が決まり、僕はスーツを着込んでお店へ。

集団面接だったのだが、周囲はみんな普段着。スーツを着込んきたのは僕だけ。
大学時代のバイトは先輩の紹介だったので、面接というものが初めてだった。

世間知らずだった。でも、スーツのインパクトですぐに採用が決まった。

大阪へ出てきて17年が経った。友人の「お前、終わってるな」のひと言から、
新しい僕が始まって17年が経ったとも言える。

あのひと言があったから、今の僕はある。ということにしておこう。